九州大学建築学科卒業設計展 松岡恭子氏記念講演

九州大学の卒業設計展の記念講演として福岡のみならず世界で活躍する女性建築家松岡恭子氏の講演が天神の大央ホールでありました。

最近の代表的設計は、北九州空港の設計および空港につながる橋のデザイン、また建築に関わらず福岡を走る西鉄バスのデザインなどのプロジェクトをしています。

天神のど真ん中にある、地下のこじんまりとしたホールで行なわれました。
事前の宣伝はほとんど無かったので、30名ほどの来場で同僚2人と数名の設計・デザイン関係の人以外はほぼ学生でした。
もったいない。。。

学生の卒業設計の講評を通して彼女が訴えたかったのは、
「建築の学生は建築だけではなくて、建築を通じて様々な分野への可能性がある」⇔「建築という学問は技術だけでなく教養の部分が大きい」
ということではないか、と感じた。

とかく建設業界だけに偏りがちで閉じられた世界の建設業界。
それでは、やはり発展はできないという彼女の考えである。

ちなみに卒業設計の提案では以下のようなものがあった。

・土産物屋さんが乱立する神社の参道。
→表層的で薄く貧しい商業的街並への危惧からその奥に広がる豊かな生活空間への提案
(松岡氏)structureの工夫・スキマ空間の増殖についてもっと突き詰めてみて。

・荒れた九州の竹林
→竹の再利用計画的建築提案
(松岡氏)このユニットの増殖を考慮するのが本来では?

オノマトペ(擬態語)を建築として表現
→与えられすぎる建築空間に対して自由な発想での集合住宅
(松岡氏)ルールを与えるのが建築家の役割・時間軸・空間の骨格のみの責任は建築家であるが、住み方については住人の責任。しかしながら、いろいろなプロジェクトを進めていく上で建築家の役割は責任をもつこと、覚悟する事、人任せにしない事が必要である。

警固断層への危惧
警固断層地区の建築物を一旦排除し視覚化しそこに建築を与えることで日常の危機意識を高める
→ベルリンのユダヤ博物館。戦慄を想い出させる建築とそれを間近で受け入れる市民(松岡氏)

・中洲の商業建築「パラサイトハウジング」
→上部の層に集合住宅を連続的に配置
(松岡氏)住まい方にもう少し工夫の余地が。

・新宮の農村と住宅街とロードサイドショップ
→調整区域と都市計画区域で分断された変な場所がある。そこにわざわざ壁を立てることで結びつけようという試み。
(松岡氏)カベをもっと突き詰めてみては?素材・穴・つながり・形など。

・デザインを必要としているのは誰か(受賞作品)
→ナイジェリア油田枯渇後、そこに元から住む貧困層・労働者への暮らしを発掘のための建築や副産物により提案。
(松岡氏)実際にいろいろな団体に提案をしてみてはどうか?


様々な提案があり、建築を考えていく上では、建築に関わらず社会の問題を考え、深く掘り下げる事が大切と改めて感じさせられた。

また、本日受けた別のセミナーでもあったが、大学というところは、「答えがなく」「結果をもとめられない」世界であるというのも納得。
(対して、社会人とは「答えはないが」「結果はもとめられる」世界)

建築というフィールドは広い。建築というのはいろいろな社会への「鍵」「パスポート」である。
そういう面で建築は決して一人では完結しないものであるが、プロジェクトの責任をとることへの覚悟が必要。

初めて松岡恭子氏を写真以外で見たのですが、黒のハイネック・パンツ・サングラス以外はシルバーのジャケット・スニーカーで洗練された雰囲気でした。近い将来、妹島和代氏のようになっていくのでしょうね。

また使われる言葉が抽象的・象徴的で難しい、建築家というのは詩人でもあるんだな、と感じました。
日常会話ではあまり使われないような熟語のもつ意味がわからなければ内容の理解は結構難しい。
英語だけでなく、フランス語にも通じているというのにも、驚きました。

すごい人ってほんといろいろな分野で活躍できるんだなぁ。

平成21年3月28日(土)〜4月3日(金)
九州大学建築学科卒業設計展 『拓く』
場所:大央ホール(天神)